風邪を引けばオク屋が儲かる
2016-03-10 | MINORUTHREAT(覆面)
高熱にうなされ気絶のように眠った二日間以降、僕はもう眠る事にも飽き、ただぼんやりと天井を眺めて過ごしていた。
四日目の夜、メールを確認するために手にしたスマートフォンで思いつきにオークションアプリを開く。
pearl フリーフローティング 3.5インチ
探していたあの楽器が出品されていた。
シェルの素材も僕の欲しかったブラックスチール。
現在の価格を確認すると、残り2時間で5000円。
この楽器の中古の相場が15000円から20000円なので、この値段で落札出来たらかなりお得だ。
しかしオークションの性質上、残り時間わずかになったところで相場程度の金額まで吊り上がるんだ、きっとそうだ。
残り時間20分で6250円という金額を確認したところで、僕の指は"落札ボタン"を押していた。
残り10分、価格は僕が入札した6500円、頼む、このまま僕の元まで来るんだ!
残り5分から怒涛の入札が入り、僕も応戦。価格は一気に10000円まで跳ね上がった。
正直10000円で買えてもかなりお得だ。しかしこのまま熱くなり続けると結局相場よりも高い金額で購入してしまう事が多々ある。
オークションには魔物が住んでるんだ。僕はそれを知っている。
高熱の割には冷静な判断が出来た優秀な脳の指令に従い、僕はそっとアプリケーションを閉じた。
眠りとも呼べない微睡の中、僕の手元にあの楽器が届く夢を見た。
翌朝、鉛のように思い体を何とか起こし、形だけの朝食を胃袋に詰め込んで体温計を腋に挟む。
デジタル画面には38.2と、昨夜と全く同じ数字が羅列されている。
そんな事をしながらも頭の中は昨日の楽器の事が気になって仕方が無い。
枕もとのスマートフォンに手を伸ばし、オークションアプリのアイコンに指を掛けた。
タップする指は震えている。
閲覧履歴から昨夜のオークションが終了している事を確認。
落札価格。
「10250円」
僕は声に出してよんでみる
「いちまんにひゃくごじゅうえん」
ちきしょーー!!!
自分の耳から蒸気が噴き出しているのが分かる。
ああ、もう一度だけ落札ボタンを押せば最高落札者は僕だったのに。
勿論相手がさらに押したであろう事は容易に想像できるが、僕の脳はもう冷静さを欠いていた。
一度指の間をすり抜けて掴みそこなった楽器が欲しくて欲しくて仕方ない。
体温計を腋に挟んだままにしていたなら、デジタル画面は恐らく39.8を表示していただろう。
直ぐにオークション内を検索するが、20000円、16000円、18000円と相場の金額スタートのものしか無い。
目の前で10250円で購入した人間を見たばかりの僕にはとても出す気にならない金額だ。
諦め切れず、他のオークションサイトまで手を伸ばす。
頭の中では捏造したこの楽器との楽しい思い出が走馬灯のように駆け巡っている。
キャッキャウフフ
返してくれよ、アイツを俺に返してくれよ!
pearl フリーフローティング 3.5と打ち込みクリック。
1件がヒットした。
金額は10000円即決、送料込み。そこまで確認したところで、僕の指は"落札ボタン"を押していた。
もう誰にも、誰にも盗られたくないんだ!
そう、最初から誰も盗って等いない。
もちろん、届いた楽器のシェルがブラックスチールでは無い事に気が付いたのは届いた後の事だ。
Posted by MADOVER(マッドーバー) at 13:35│Comments(0)